秋は子ヤギの駆け足で

2021年9月22日 晴れ日没の頃から雨

 この頃早起き。こいつらのお蔭で。お母さんがおっぱい飲ませてくれないから、人が絞って授乳。台所は土足禁止だよ。

 人の朝食。クボタミックス粉(小麦2種、ライ麦2種、スペルト。古いクボタハーベスタが掬い上げきれないで螺旋下に大量に残る穀粒使用)のパン、ジャガイモと野生ヒラタケの卵焼き、きゅうり。今年はナス、ピーマンがあんまり穫れなかった。ピクルスキュウリもダメだったな。

 蒸し暑い午前中、他所の田んぼのはぜ掛け。他所の仕事は作業の手が速い。手抜きじゃないけど、慣行農法の田んぼでは、決まりきった手順を決められたようにこなしていくから迷いがない。工場や、会場設営の現場仕事に近い。面白いのと金になるのは、今のところ一致しない。

 昼下がり、暑すぎる秋空、虻の復活、ヤギの放牧、赤とんぼ。

 子ヤギの角も伸びてきた。除角はしない。角で突かれて怪我しようとも。去勢はするよ。猫も大勢避妊去勢したし、死後は地獄行の可能性が高い。どういう責め苦か想像もつく。痛い。

 お膝でおねんね。どんな夢見てるのかな。NO作物踏んだりかじったりしないでね。

ヤーの出産 その2

9/4 雨、雨、雨!肌寒い一日

 ヤーの最後の発情は3月末だったので、普通に考えると出産は5か月後の8月末で、今回も計算通りなのだが、私は独自の推論(今となっては根拠が思い出せない、、、)で懐胎があり得たとすれば3月頭、出産があるなら8月初頭だと見当を付けた。それで、7月も終わろうという頃から、ヤーの出産の兆候を気にし始めた。その兆候とは、ヤーの場合、

1、横張りだったお腹が、下に垂れる。真上から見ると、腰椎がくっきりと浮き出して見えるようになる。

2、生殖器、つまり産道出口が伸びて、出っ張ったり引っ込んだりを繰り返す。大リーガーの口元みたいに。

3、おしっこがリンゴジュースのようなフルーティーな匂いになる。フランスワインの鑑定用語には「出産を控えたヤギのおしっこのような香り」というのがあるらしい。「猫のおしっこ」のほうが知られてるけど。

4、落ち着きがなくなり、とにかくウロウロする。ヤギは元々落ち着きがなくてとにかくウロウロするものなので、このポイントで判断するのは中々むつかしい。一般には、「食欲がなくなる」もあげられているが、ヤーは陣痛が始まって座り込む直前まで食べている。

 パッと見で判り易い 1、のお腹の変形を主に観察していたんだけど、今回は誤診続きだった。今日産む!と思って午前中をヤーの後追いでつぶした幾日かの後、うんざりする長雨に見舞われたこともあって、予定日を次の可能性、3週間後に移した。

 こんな雨の中で生まれたらいやだなー、『みにくい白鳥』読みたいなー、と心にカビを生やして鬱々しながら迎えた予定日、雨が上がった。朝、ヤーはいつものように落ち着きなく歩き、お腹は変形し、産道出口にオリモノが見られ、甘酸っぱい(推定)おしっこをした。前回は産むと決めた朝から夜の8時まで粘ったので、そのくらいの長丁場は織り込み済みである。怪しい素振りがある度に「ヤー、産む!?」と尋ねるが、その度に判読不可能な曖昧な態度で肩透かしを食らったのか食らわないのかも判らないまま「まだ、産まない、ね、、、」と引き下がる。午前中いっぱい、「産む!?」「産まない、、、」の繰り返し。

 そして昼過ぎ、ヤーが自分から納屋の出産部屋に入った。

 小屋に入ればふつう、寝るか食べるかのどちらかなので、ウロウロしているのは明らかな前触れ。イナバウアーのポーズを取る。座って片脚を投げ出す。呼吸が速くなる。疑いようがない。夜には生まれるだろう。

 日が暮れて夜になってもヤーの様子は変わらない。ルーティンのように仰け反り、座り込みを繰り返し、時折座ったまま後脚で地面を掻く。前回実績の8時を過ぎ、9時を回っても取り立てて変化なし。仮眠を取って11時に様子を見たが、少し疲れたのか、落ち着いてしまったようだ。じゃ、明日産もうね、おやすみ。

 「GMHEE~!」ヤーが叫ぶ声で目が覚めた。午前零時過ぎ。納屋に駆けつけるとヤーが苦しげによろめいている。寝床の地面が濡れている。出産、保育期、ヤーは小屋を極力汚さないよう、おしっこは寝床と別の決まった場所にするので、これは破水だろうと見当が付く。産む。

 唸り声を上げて力み、産道が膨らみ、また萎む。くずおれて足掻く。これがまた朝まで続くんじゃないかと不安になる。そのまま(眠くて)気が遠くなるような時間が過ぎたように感じられたが実際は30分ほどのち、とうとうお馴染みの羊膜が現れた。鼻と蹄も見える。と、風船ガムのように引っ込む。ヤーは痛いよう、痛いようと鳴き続ける。前脚が片方引っかかってるのかな? そういう場合は手を突っ込んで両前腕を揃えて出口に誘導しろ、とか無茶なことが書いてあったな。畜生(事実)、そんなことできるかよ!

 羊膜の出入りが3度繰り返され、次に出てきたら介助しようと決める。出てきた。鼻と蹄二つ、よし、正常分娩だ。そろりと引っぱり始め、スルスルと引っこ抜く、初めちょろちょろ中パッパ、みたいだが、その時はそんなこと思いもしない。半分くらい抜けたら、ヤーが痛がって走り出した。羊膜をつかみながら追いかける、ヤー逃げる、追い付かないのが幸いして赤ちゃん羊膜ごとスッポンと抜けて、ぬるぬる滑って地面に落ちた。まあ大きい赤ちゃんだこと! こんばんは、赤ちゃん、私はパパじゃないのよ♪

 ヤーは羊膜を咬み破って、メメメ、メメメと鼻腔で鳴きながら子ヤギをべちょべちょ舐める。子ヤギもじきに鳴きはじめる。メメメ、エーエー、メメメ、エーエー。

 お腹の大きさから二頭は入っているだろうと予想していた通り、再び羊膜出現。いつものように二番目は比較的安産。こちらは一頭目で消耗しきって、実のところ、二頭目は気がついたら生まれていた、という記憶。ひと回り小さいね。メメメ、エーエー、ゲホゲホ、羊水を飲んじゃったかな。大丈夫みたいだね。

 三頭目はどうだろう、と見守っていると、腸詰みたいな後産が出てきた。30cm、村のお肉屋さんなら五百円分くらい、こんな量で済むわけないが、残りがなかなか出て来ない。我慢できずに腸詰を引っ張ったら千切れてしまった。そのあとからまた羊膜、三頭目か、と思いきや中身は羊水のみ。羊膜に続いて血まみれの推定胎盤がボタリと落ちて、想定外の長い長いヤーのお産は無事終わったのであった。

 私とブラックジャッ子はなお1時間ほど喜びと疲労にどっぷり浸かりながら、敷き藁を換えたり、子ヤギを拭いたり、初乳を飲ませようとおっぱいに誘導したり忙しく働いた。8月24日未明の3時間余りのこの労働に対して、残業代は発生しないとのことである。