雨続きの天気の合間を突いて昨日、やっとトウモロコシの種播きを済ませた。甲州という在来種、完熟果を粉に挽いて食べる。一昨年の種だから発芽率が気になって水に浸けておいた。発芽率は上々だったが、浸水後に悪天候続きでなかなか播けず、根っこがニョロニョロと伸びてしまった。発芽率と言ったが確認したのは発根で、その後芽が出るのかどうかはよくわからない。種屋さんのいう発芽率はどこまで調べるんだろう?
畑は昨年トマト、落花生、トウモロコシ、インゲン豆二種、ズッキーニ、オート麦、ほうき草を混植していた所。播種当初は自然農の見本みたいな美しいオーラを発していたが、やがて作物が予想外に暴れ始め、前の年の小豆が自生えしたり、カボチャが侵入したり、手入れを怠ったりで、収穫時には失敗した放任栽培の見本のようになっていた。その反省を踏まえて今年はトウモロコシとトマトのみの疎植栽培を心がける。おっと、すでに端の方にキュウリの芽が出てるじゃん、、、
30cm間隔の一か所四点播きが基本。先月播いて生育中のペインティドマウンテンで既にできていないが、ある程度育ったら一か所二本以下に間引く。今度は絶対間引く!間引きは心情的にむつかしい。なんかもったいなくて。
はじめのうちは三角ホーで条を付けて播き始める。播き溝が狭くて、横並びに点播していくと、点播だか条播だか区別が付きづらくなる。根っこが伸びてしまった種を、根っこを下にして一粒ずつ並べていくのは思いの外、いや予想通りかなり時間を食う。途中から雨も降りだした。半分播き終わった頃本降りになる。根っこの伸び具合からして中断延期はしたくない。雨のせいで、播き溝を付けてしまうと泥がべちょべちょになって覆土できなくなってしまう。それで後半は鎌で最小限の条を付けて隙間に埋め込む方式を採った。さらに時間が掛かるかと思いきや、一粒ずつ方向を揃えて播いていくならこの方が少し早い。野良仕事でおなじみの屈み込んだ姿勢を保った単純作業。舞踏っぽいなこりゃ、と思った拍子に、前夜、舞踏家室伏鴻の訃報を受けたことを思い出した。
ほんの数年間だったが、室伏さんの振り付け作品に出演させてもらったことがあった。若手ダンサーのユニット、Ko&Edge で、国内はもとより、海外公演にも何度か連れて行ってもらった。(フィジカルに)痛い振付に耐えられず、もったいないことに自分からやめてしまったが。
室伏さんとの稽古はよほど公演間近でなければ、重い沈黙の数時間の後、「今日は稽古とるか(お終い、の意)」の一言でお開きになるという、渋すぎる展開が多かった。たまに話をすることもあったが、年上ぶったところが全然なく、むしろ駄々コネの困ったおじいちゃんといった雰囲気があった。ある時、どういう経緯かは忘れたが、話が社会問題に及んだことがあった。俺はその時左翼的言辞を弄したに違いない。室伏さんは俺に向かって、「デモだろうがテロだろうがやりたいことをやりゃいいじゃねえか。お前は何でそんなに意地汚くダンスにしがみついてるんだよ。」と言った。その時ははぐらかす様なことを言って切り抜けたが、意地汚くダンスにしがみついている、というのは全く図星だと思い、ずっと後になってもよくその言葉を思い出して苦い思いを味わった。
無為の沈黙も、殊更に体を痛めつけるような振り付けも辛かったが、狭い稽古場に立ち込める、絶対に途切れることのない煙草の煙の方が何倍も苦しかった。室伏さんほど煙草を際限なく、所構わず喫う人には、後にも先にも出会わない。この「日本を代表する舞踏家」の最期を報じた記事には、メキシコの空港で心筋梗塞とある。すぐに煙草のパッケージに印刷された脅し文句を思い出した。異国の空を見つめ、煙草を咥えたままくずおれる映像が浮かぶ。長くは苦しまなかったと思いたい。空港で煙草なんか喫えるのか、という疑念は、室伏さんに関しては全く通用しない。その点では絶対の自由を行使していた。自由と言えば、舞台上でも、舞踏色から離れたパフォーマンスに自由な感じがあった。銀塗り異形の室伏さんはどちらかというと、舞踏という状況にしがみつかれているように感じることが、しばしばあった。
播き終わりの直前になって甲州が種切れになったので、予備に用意しておいた雑種トウモロコシを播いた。これは昨年、お隣さんから頂いたスイートコーンだが、種は粉用の硬粒種のように硬い。実をほぐすと軸が赤くなっていて、うちのトウモロコシと交雑した形跡がうかがえる。軟らかい甘味種と硬粒種が近場(半径5㎞以内)で同時期に開花すると、甘味種の株は一方的に硬粒種の遺伝的影響を受けるという。硬いほうには影響が現れない。雑種強勢を期待しながら播いたが、甲州の種も採りたいから開花時期には注意しておかなければいけない。
夕べの鐘が聞こえてから一時間近く経ってようやく作業が終わった。雨は今や土砂降りに近い。雨具を付けなかった下半身は気持ち悪さを通り越してやけくそなびしょ濡れ。さて撤収だと玄関前で空を仰いだ拍子、ほとんど頭上で稲光の白い閃き。やばい、と身をすくめた瞬間、空気を震わせて雷鳴が落ちた。
お、と呟くように気合を入れて背中を地面に叩き付ける、室伏鴻の伐倒さながら。
6月21日、夜更けにしるす