ミツバチの話

mitubacinoshi

ミツバチがいなくなったよ、と言われて、そんな馬鹿なと巣箱を見に行くと、巣門の下辺りで20~30匹くらいのミツバチが死んでいた。草に覆われているところを良く探せば、死者の数はもっと増えるだろう。いなくなったというのは大袈裟だったが、確かに悲しみのやり場のない出来事だ。

ところで、ここ麻績村には、高冷地の南斜面(ゴルジNO場は東斜面で日の入りが早い)という地勢を利用してリンゴ園があちこちにある。リンゴ畑のそばに住んでいる人なら誰でも知っている通り、リンゴの殺虫消毒にはSS(スピードスプレイヤー)という、一見かわいらしい農業機械が活躍する。おもちゃの消防車みたいなこいつが、どっこい、ゴウゴウとすさまじい音を立てながら(たいてい日曜日の朝6時頃)高さも幅も数メートルに及ぶ農薬の霧を吹き上げながら、リンゴ園の中を進んでゆく。21世紀の現代の話だから農薬と言っても毒性は厳しく規制されて、、、おや、作業している人たちの服装が変だ。どこかで見覚えのある、、、そうだ、福島第一原発が地震でメルトダウンした直後、マスコミにしばしば登場していたあの防護服にそっくりだ。

というような事情は、リンゴ畑のそばに住んでいない人たちは、考えたこともないだろう(俺も街場に住んでいたときは、想像できなかった)。今では他人がリンゴを皮ごとかじるのを見ると、ああ、あのリンゴが今、この人の食道を通って内臓に取り込まれていくのだなあ、と、ある種の驚異の念に打たれる。

ミツバチの死因は判らないままだろう。分かっているのは、SSの直後にたくさんのミツバチが死んだという、それだけのことだ。

その手に触れるものを疑え。その手で触れているという事を、感じることから始めよう。